生産者レポート
Rene Mureの後編となります。
今回は彼のピノ・ノワールについて。
また、彼らの代名詞ともいえるクロ・サン・ランドランという
特異な区画についてなどをレポートいたします。
2007 Pinot Noir
2008 Pinot Noir Signature
『コート・ド・ローファの語源は赤い水という意味なんだ。
それを示すように表土は酸化した鉄分を含む赤い土で鉄分
が多いんです。』
2007 Pinot Noir ≪ V ≫
2007 Pinot Noir Clos St Landerin
1999 Pinot Noir Clos St Landerin
ルネ・ミューレの名前を一躍知らしめたひとつのきっかけが彼の
ピノ・ノワールと言えるでしょう。
アルザスとは思えない深みのある色調、凝縮したアロマ、熟した
キメの細かいタンニンが感じられます。上級キュヴェになってくる
と明らかにワインの質があがり改めてアルザスは品種のワインでは
なくテロワールのワインだと感じさせてくれます。
法律上、アルザスではピノ・ノワールはグラン・クリュを名乗ること
が出来ません。そのためピノ・ノワール ≪ V ≫は特級畑Vorbourg
(フォルブルグ)の頭文字を指しています。
(クロ・サン・ランドランは特級畑フォルブルグ内の区画名)
2007年の彼のピノ・ノワールを飲んだ時、数年前と比べて力強く
濃厚なアタックがやわらぎ、余韻へと続く香りの要素がより感じられ
ました。
メディアなどで喧伝されているキリヤコス・キニコプロス氏
(ブルゴーニュにてルフレーヴやペロ=ミノのコンサルタントを
務める)のコンサルタントが終わったのだろうかと彼に尋ねてみた。
『1995年から、私は彼に年に2度ほど来てもらい、アドバイスを
いただいていました。ここ数年は、年に一回ほど私がボーヌに出向い
てアドバイスを貰っています。彼には本当に色々なことを教わりました。
彼のやり方が良いとか悪いとかではありません。私の先生です。』
『クロ・サン・ランドランは南に向いた日照に恵まれた土地です。
しかし石灰質土壌がもたらすエレガンスがそこにはあります。
2007年は本当にクロ・サン・ランドランらしいエレガンスを
備えたワインになりました。2005年や2008年は、果実味
の年で、エキゾチックなスパイスの香りがあり比較的早くから
楽しむことが出来るワインになっています。』
2005 Sylvaner Clos St Landerin Cuvee Oscar
ピノノワール同様、グランクリュを名乗ることが許されていない葡萄。
没個性的になりがちなシルヴァネールですが、非常にアロマティック
で完熟した果実味と残糖の甘味がありますが、綺麗なミネラルを伴う
酸味が甘味とのバランスを保っています。
『このシルヴァネールはアルザスの中でも最も樹齢が古いものなんです。
一番古い樹で樹齢は75年にもなります。
アルザスのグラン・クリュ法が制定された1980年代に、グラン
クリュとして認可されなかったシルヴァネールはほとんどが抜かれ
てしまいました。しかし、この区画の葡萄は私の祖父Oscar
(オスカー)が非常に愛して育てていた葡萄です。
そのため私たちはこの葡萄を残し、このワインに祖父の名前を冠し
て造っているのです。』
試飲会でも、お客様の間で驚きを含んだ反応が顕著に見受けられました。
2007 Riseling Grand Cru Clos St landerin
1999 Riesling Grand Cru Clos St Landerin
1997 Riesling Grand Cru Clos St landerin
『クロ・サン・ランドランにはグレープフルーツの香りが出てきます。
これはテロワールの特徴です。
2007年はこれから20年間は味わいが向上を続けて行くでしょう。
1999年は貴腐が発生した年です。そのため熟成を経て、貴腐を思
わせるような香りが感じられます。』
アルザスワイン最高峰のひとつに貴腐から生まれるセレクション・
グラン・ノーブルがあることは知ってはいました。
しかし素朴な疑問として、この収穫期にこそ最上のワインを生む
貴腐菌は、タイミングや葡萄を間違えてしまえば、病害にもなり
うるのではないでしょうか。
『クロ・サン・ランドランでは斜面の場所によって植える品種を変えています。
リースリングには冷涼さが必要なので斜面の下部に植えています。
斜面中腹にはピノ・グリとゲヴェルツトラミネール。
斜面の上部は最も日照が強いため、ミュスカ、ピノ・ノワール、
シャルドネを植えています。
フォルブルグはヴォージュ山脈のおかげで雨がほとんど降りません。
山脈からは乾燥した風が吹き下ろしてくるため斜面の上部は比較的
乾燥しています。土壌からの湿度のたまりやすい斜面の下部の方が
貴腐菌の発生には適しているでしょう。しかしそれにも健全な葡萄
栽培をするということが前提です。』
彼のリースリングに共通するのは、集中力のある果実味がありながら
背景にしっかりとした酸味、ミネラルが感じられる点です。
ソムリエ試験などで教わった、リースリング=ペトロール(石油系)
香はあまり感じられませんでした。
『リースリングのペトロール香というのは本来の葡萄の香りではない
と思います。若い段階で生まれるペトロール香は未熟な葡萄、未熟な
樹に由来するのです。
リースリングのペトロール香というのは長い時間の熟成を経た時に
生まれてくる香りなのです。だから私は若い段階で出てくるペトロ
ール香はあまり好きではありません。
逆に私たちのワインは20年も熟成を経てくると香りが変化して好ま
しいペトロール香が生まれ、リースリングもゲヴェルツトラミネール
もピノ・グリも見分けがつかなくなるほどなんです。』
Thomas氏とはかなり長い時間をかけて説明をしていただきました。
こちらの質問にも嫌な顔ひとつせずに、非常に丁寧に解説をする姿。
試飲会の時も、たくさんのお客様の意見に耳をかたむけていました。
また、他のブルゴーニュの生産者とも積極的に意見を交換している姿
を見て彼のワインは更に進化していくと確信を深めました。