インタビュー(ラトゥール・ジロー)

3月に幕張メッセにて開催されたFOODEX2010。
この時期に合わせて弊社取り扱い生産者が来日していました。

今年は、ラトゥール・ジロー(ムルソー)の当主・ジャンピーエル氏に
じっくりとインタビューさせていただきました。

Jean-Pierre Latour氏

Jean-Pierre Latour氏

某米国系評論家の言葉を借りるのなら、まさに彼こそ
“控え目で慎み深い”という表現に当てはまるのではないで
しょうか。

私たちが彼のワインを試飲している際にも、彼は基本的には
語りません。まるで“ワインが気持ちを代弁している”と言
わんばかりです。

過剰なリップサービスもなければ、こちらの質問にも簡単には
答えません。その質問の意図を確認してからじっくりと言葉を
選んで話す姿は哲学者のように見えます。このは、彼がかつて
理工学を学んでいたことと無関係ではないように思えました。

彼がドメーヌに戻った1980年代、彼は果汁をピュアにする独自
の醸造でムルソー本来の美しさを表現した数少ない生産者と言
われています。
しかしいまだにムルソーといえば“樽の風味が強く、濃厚で重
たい”というイメージを持っている人が少なくはないでしょう。

彼にとっての“ムルソー”とはどのようなものなのかを尋ねて
みました。

「ムルソーとは何か。全体的なイメージを敢えて言葉にする
ならば複雑さ、強さ、バランスが取れているワイン。
アタックではなく、口の中に含んだ時にリッチな香りを持ち、
余韻に重たさを残さないワインです。」

まさに彼の造るワインを体現した言葉のようです。
彼のワインは果実のピュアさと余韻のエレガンスが特徴的だと
思います。彼のフラッグシップであるムルソー・1erジュヌヴ
リエール。彼はこの畑の最大の所有者です。
ジュヌヴリエールについて彼は言います。

「私の所有するジュヌヴリエールは斜面上部のDessusと呼ばれ
る区画です。斜面下部のDessousと比べてより表土が軽く、
明るい色合いの土壌です。そのため斜面下部のジュヌヴリエール
と比べても、より軽やかで繊細な味わいのワインになります。」

ムルソーを語る彼の口からは“繊細”“ピュア”“エレガント”
といった言葉が繰り返し語られます。

「私個人は、重たくて、強いワインが好きではないんです。」

いわゆる典型的なムルソーが、若いうちから樽のロースト香が
過剰に感じるのに対し彼のワインは樽の風味が主張し過ぎず、
樽の要素が肉付きのよい果実を支えるアクセントのように感じ
られます。一部の生産者が用いている、通常よりも大きな樽を
用いて樽の風味を抑えて白ワインを熟成させる手法についても
聞いてみました。

「私は、大樽を用いて熟成させる手法は使いません。ただ、
その手法について良いとも悪いとも言えません。その手法で造
られたワインの美味しさも知っています。確かに今はその手法
は流行ではありますが、(ここでしばらく沈黙して言葉を探す
ように)本当の意味で正しいことというのはいつもすぐにはわ
からないものなのです。」

自分の考えと異なるものを徹底的に否定する人間は数多いです
が最後の言葉がまるで哲学者のように聞こえ、彼の人柄を表し
ているように感じました。

「私はワイン造りにおいて、日々の“リズム”が大事だと考え
ています。大きな樽を使うことは、様々な作業の私の“リズム”
を崩してしまうからです。その結果、私の目指す本来のワイン
ではなくなってしまうことは本末転倒です。」

試飲した2007年ヴィンテージ、そしてこれからリリースされ
る2008年について尋ねてみました。

「2007年は難しい年だったのは事実ですが、結果として素晴ら
しい年になりました。ワイン全体としては、閉じている時期が
非常に短く、早い段階で開くでしょう。ピュアさ、エレガント
さが表現された年です。ヴィラージュクラスで4~5年。
プルミエ・クリュであれば5~6年は熟成します。」

ここで彼が言う熟成期間とは、賞味期限的な意味での熟成では
なく年々、その品質が熟成を経て向上して行くという意味を込
めています。

「2008年については、まだ造ったばかりなので多くは語れません
が、難しさのある年でした。収穫量は例年と比べ、全体で30%
落ちました。しかし凝縮感のある健全な葡萄のおかげで、綺麗な
果実味に富んだワインになりました。2006年のワインに似てくる
ように思います。」

ここで彼は、よく聞かれるであろうこのヴィンテージに対しての
質問に対する反論のように言いました。

「私にとって、ワインとはテロワールありきです。まずはテロワ
ール。それを表現することです。そしてどんな年でも私はテロワ
ールを表現したワインを造る自信があります。」

寡黙なジャン=ピエール氏ですが、彼の言葉には常に揺るがない
自信が感じられました。

「私は常に最高の場面も最悪の場面も想定しています。どんな年
であろうとも、失敗したワインを造ることは許されないのです。」

来日時、彼の持ってきたドメーヌの写真に可愛らしい女の子の
写真がありました。彼の娘さんの写真でした。
日本滞在中の3月5日は、彼の娘さんの7歳の誕生日だったと
聞いたので、娘さんの誕生日プレゼントを渡しました。
はにかみながら御礼を述べる彼を見て、寡黙な求道者に見える
彼もこの時ばかりは父親の顔に戻ったのが印象的でした。

株式会社オルヴォー(村岡覚)